日本空手道不動会

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子供たちを支える心の周辺環境に

(特非)日本空手道不動会 会長 兼 法人理事長 平野泰作


ここ数年、わたしの住んでいる豊田では、蝉の王様といわれるクマゼミの鳴く声をよく耳にします。


「シュンシュンシュン・・・」と、わたしの幼い頃にはこの辺では聞くことのなかった鳴き声です。聞くところによると温暖化の影響で、以前よりも気温が高くなったこともあり、暑い気候を好むクマゼミが生息しはじめたとか。子供の頃、幡豆のお寺の少年部合宿で初めて見てから、憧れだった虫の一つが身近に感じられることは嬉しいのですが、その原因が温暖化というのを聞くとちょっと複雑な思いです。そんな蝉の声に幼い頃を顧みると、この時期には豊かな自然を背景に、様々な冒険や体験をしたものだと懐かしく思い出されます。真っ黒に日焼けし、たもや虫かご片手のわんぱく坊主が、この時期には町のいたるところにいました。しかし近頃では、子供たちの遊ぶフィールドは室内や街中に移行し、自然からいろいろなことを学ぶチャンスも減ってきています。その様な状況を背景に、子供たちをねらった誘拐・拉致・監禁・通り魔・恐喝・暴行・麻薬など、様々な街中犯罪が横行してきています。

そんな昨今、子供たちに対しての心配は、上記の様な犯罪の被害者になることだけではなく、非行を犯したり、事件の加害者になってしまうことにも及びます。昔のように、交通事故や水の事故がおおかたの心配だった時代とは状況が変わっているのです。自然の中で生き物や植物を採っても余程に罪にはなりませんが、街中で商品や人の金品を取れば犯罪です。お金のかからない自然相手とは違い、誘惑の多い街中はお金がかかるのです。時に、大人でも大金と思うほどの金額が必要となります。そして、その中から誘惑に負け、大人顔負けの犯行を犯してしまう子供が出てきてしまいます。

ところが自然相手では、お金を使って欲しいものを手に入れる街中に比べ、欲しいものを手に入れるためにはお金の代わりに知恵を使います。知恵を使えば使うほど楽しさと収穫は増し、鍛えられ、素晴らしい経験が蓄積されます。逆に知恵を使おうとしない者に自然はなかなか楽しさを見せてはくれません。

人の所有物を手に入れる「取る」ではなく、自然の所有物を手に入れる「採る」という経験が今の子供たちには不足しているのです。幼い頃に、人工物から経験の伴わない表面的な薄っぺらい知識を学ぶのではなく、自然物から身をもって本質的な知識を学ぶのです。そして、自然物から得た知恵をもって人工物をより有益に操ってゆく。勿論それらは一度や二度の経験で手に入るものではなく、多くの経験の中から培われていくものです。

しかし、今は自然が周りに溢れていた我々の時代とは違い、自然からの誘いの入口が身近に感じられません。だからこそ、我々大人たちがそういう子供たちの環境に無関心にならずに、「価値観と必要性」を少しでも伝えていくということはもとより、「理解と協力」といった子供を取り巻く周辺環境になってやることで、子供たちの心の中にしっかりとした「心構えと経験」を持たせてやることも大切な役割であると心に刻み、「子供たちを支える心の周辺環境」の整備に取り組んでいきましょう。